「い、痛い」
「あっそ」
「は、はなして」
「やだ」
体を捻って逃れようとする初音を視界に捉えて、薄く、嗤う。
ぞくりと背筋に走る悪寒。けれど次の瞬間、初音の痩身はひどく温かいものに包まれた。
「……っ」
顔が近い。肩口に、顎があたっている。
抱き締められているのだと気付いて、初音は体を竦ませた。
「ほっせぇ…」
ぞんざいな声音で呟く吐息が、耳元を掠めてくすぐったい。
どうして?問いたいのに、驚きに喉が萎縮して、声が出てこなかった。
やがて、呆然と抱き締められるだけの初音に焦れたのか、小さく舌打ちが聞こえた。
「お前さ、一年の頃、壱弥好きだっただろ?」
ぎり。と、歯が軋む振動が肩に伝わる。真鍋が歯噛みしたのだ。
「用事もねぇのにうちのクラスの前ちょろちょろしてたり、廊下で擦れ違う度にこっそり振り返ったり、してただろ?知ってんだよ、全部」
苦々しいものを吐き出すみたいに喋る真鍋の背中に、ゆっくり手を回す。至極、自然な動作。
「なんで?」
「なんで!?あ、いや…なんでかっつーと、だな…つまり、その………き、なんだよ」
「え?聞こえなかった。なに?」
嘘だ。こんなに近い距離で聞き逃すなんてありえない。
そんな事、真鍋だって知ってるだろうに。
「…だからっ、あー、あの、だからお前の事が…好き、なんだよ!俺は!」