寄りかかるだけ寄りかかって、結局絢人には何もしてあげられなかった。
精々できたのは、性欲処理くらいだろう。

だから、頭では納得はしているのだ。

しかし、心がついていかなかった。

心が、いやだ。はなれたくない、と訴える。

バランスがとれていなかった。
冷静な頭と、感情で揺れる心のバランスがどうしてもとれなくなっていた。

「もっとうまく、やれると思ってたんだけどなぁ…」

自嘲。誰もいない図書室に、零れた自嘲は消え入った。

そう思ったのに。

「なにを?」

問われ、勢いで体を反転させる。

開いたままのドアに手をかけた真鍋宗佑が、訝しそうに初音をみていた。

「なんで泣いてんだよ」

「か、関係ないっ。あっち行ってよ」

「なくねーよ。だってお前、倉澤と別れたんだろ?」

「そっそれこそ関係ないじゃない!」

核心をつかれ、初音の声が裏返った。
高いキーの声に片方の耳を押さえた真鍋の足が、図書室へ踏み込む。

「あるよ」

「ないわよ!とにかく、もう放っておいて。今は一人にし…え、ちょっ…こないでよ、ねぇ、やだって…やっ」

「あるっつってんだろ」

ぐっと肩をつかまれて、初音の眼差しがきつくなる。
しかし手の力は弱まらない。
掴まれた肩から伝わってくる真鍋の必死さが、初音には理解できなかった。