カラカラと物寂しい音がして、足音が遠ざかって行く。

鼻の頭から眉間にかけての部分が痛い。
痛いというか、つーんと突っ張る感じがして、熱い。
眼球の裏側から圧迫感が押し寄せる。
下瞼がぷっくり盛り上がってくるように、涙の膜が浮き出た。

「……っぅ…」

声を殺す。それでもしかし、漏れ出る声の、なんて惨めな様か。
失くした恋に、強がってみたところで、余計辛くなっただけだ。

華原芽衣と、普通の友人のように話せるなんて、真っ赤な嘘だ。

こんな、みえみえの強がりに、気付かない絢人ではないだろうに。

気付かないふりをされたのだと、寂しかった。
もう絢人は自分のものではないのだと思い知らされて、苦しくなった。

ほんの数日前まで自分のものだったあの腕は、これからは華原芽衣を抱くのだろう。
薄い唇や柔らかい舌は、華原芽衣の唇や肌を辿るのだろう。

嫌だ。嫌だ嫌だ。

もし、これまでに作り上げた里中初音という人格を否定してでも泣き喚いて、縋れば、絢人は戻ってきてくれるだろうか?

否。絢人はそんな簡単な人間ではない。

絢人は容姿や頭脳や運動神経を与えられた分、どこか人としては不安定だ。
あんな人間を、本気でどうこうしようなんて考えるだけ傲慢で、驕り以外の何ものでもない。

私では、絢人は満たせない。