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「はい、これが地理と古典の範囲分」

手渡されたノートを受け取って、無造作にぱらぱらと捲った絢人に、初音が溜め息を吐き出した。

数分前、いきなり『図書室』とだけ打ったメールで自習をこなしていた人間を呼びつけておきながら、全く悪びれない横柄な態度に、相変わらずマイペースだと気が抜けたのだ。

「べつに今更力んで勉強しないからいいけど、何に使うのかくらいは教えてくれてもいいんじゃない?」

気遣いを含んだ言い回しに緩く笑い、絢人が顔を上げる。

初音の肩をぽんと景気良く叩いて、「ありがと。助かる」と薄い唇が動いた。

簡素さに、思わず手を伸ばす。

「ちょっと、答えになってないわよ」

腕を引っ張って引き止めると、姿勢の良い長身をそのままに、いやに可愛らしく絢人が小首を傾げた。

「初音さ、思ったより元気だね」

「なによ、それ」

「もっと切ない顔してくれるかと思ったけど、実際そうでもないって意味」

意味深に目を細められて、初音が哂った。

「ばっかじゃない?私は恋愛してなきゃ生きていけないような情けない人間じゃないの。それくらい絢人だって知ってるでしょ」

「うん、そうだね。知ってる」

じゃあね。と過ぎ去ろうとする男の腕を再び引いて、今度は「でも」と殊勝な声を出してみる。

なに?と絢人が振り向いた。