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ほてほてと芽衣が歩いてくる。ほてほてほてほて、歩いてくる。

芽衣は俯いてなど、いなかった。

けれど、目の前オ壱弥に気付かないまま、ほてほてと人気の無い廊下を歩き続ける。

外界を全てシャットダウンするような、虚ろな眼差し。

足元から湧き出るみたいに嫌な予感がして、壱弥は芽衣に向かって歩を進めた。

「芽衣」

眼前で、肩を掴んで抱きとめる。途端、芽衣はたった今意識を取り戻した患者のように眼球を鈍く動かし、壱弥に焦点を合わせた。

「どうした、何かあったのか?」

ぼんやり見上げてくる芽衣の瞳を覗き込んで尋ねるが、芽衣は虚ろだ。ひどく、空っぽな瞳に壱弥の困惑した顔が映っている。

気休めに、頭を撫でた。耳を、頬を、唇を、指先が撫でた。

「芽衣?」

呼びかける。耳元で、優しく呼びかける。

すると、それまで無気力にだらりとぶら下がっていた芽衣の腕が、僅かに屈んだ壱弥の首に回され、引き寄せられた。

「イチは、わたしのこと置いてどこにも行かないよね?」

掠れていて、聴き取り難い声だった。震えていた。
しかし芽衣はぽつぽつと続けた。