「それでさ。――あ」
「え?」
「だめだ、また後でな」


 橋川さんは苦々しい顔をして、ふわりと浮き上がった。さすが幽霊……じゃない。話の途中だというのに、どこへ行くのだろ。
 追いかけようとしたが、それは叶わなかった。

 途端に周りの景色が反転して――。




「ん……」


 目を開いたら、病室の天井が見えた。

 小さくため息をついて、再び目を閉じる。

 なんだかものすごく、おかしな夢だったな。幽霊がどうちゃらとか、私から離れられなくなったとか……。
 でも、妙に橋川航輝という少年の声がリアルだった。たまたまリアルな夢を見たのかな、と思った。



「おい」


 少年の声だ。そうだ、あの夢に出てきた少年と同じ声――。それに気づいた私は、びっくりして目を開ける。


「あ……」


 やっぱり思った通りだった。

 黒くて大きな眼が、私を見つめていた。
 ――ただし、その姿は半透明で。