「…………」


 正直、反応に困った。なんと言えばいいのだろう、こういうときは。
 彼は分かりやすく言ったつもりなのだろう。確かに言葉は簡単で、事実も単純なものではある。そういうわけではなくて。言葉でも事実でもなく、その“状況”が理解し難いものであった。


 私から、離れられないとは。


 ああ、なんだかどこかの恋愛小説で出てきそうなフレーズだ。
 それで恋人の青年は「クサいことを言ったかな」とかなんとか言って、頬を赤く染めてちょっとはにかみながら微笑む――じゃない。


 そもそも、これは恋愛小説の一場面じゃない。というより、この橋川航輝という青年はそういう様子さえも見せない。当たり前と言えば当たり前なのだけれど。
 とりあえず、聞きたいことを問い詰めることにした。



「えっと、君は……死んでるのね?」
「ああ」
「ということは、幽霊だとか言っちゃうの?」
「ああ」
「で……私に取り憑いちゃったと」
「そうだっつってんだろ」


 橋川さんは不機嫌そうな顔で私を睨む。本当に生意気な少年だ。