少年は、私を一瞥すると再びため息を吐いた。
 私がなんだかとても悪いものや汚いものとして見られてるようで、さすがにむかっときた。


「ねえ――」


 文句を言ってやろうとしたが、それは少年が切り出した言葉によって遮られた。



「目が覚めたら分かるだろうけどさ」


 少年は面倒くさそうに頭をがしがしと掻いていたが、しっかりとこちらを見ていた。

 私は自分の言いたいことを遮られたせいで、半ば反論する気をなくしていた。このままふて腐れてようかとも思ったが、今度こそきちんとなにかを話そうとしてくれてるみたいなので、とりあえず話を聞いてみることにした。

 私が少年と目を合わせると、彼は頷いて話し始めた。


「あ、俺は航輝っつーのな。橋川航輝」
「橋川さん、ね」


 ハシカワ、ハシカワ、ハシカワコウキ。
 呪文のように心の中で唱えて、彼の名前を覚えた。



「でさ、お前が事故った場所あるだろ?」


 何だか脈絡が無い話だな。
 私は目配せと沈黙によって、彼に次の言葉を促した。


「俺、あそこでちょうど一年前に死んでるんだよ」
「はあ」


 死んでる? だったら、今話している彼は何なのだろう。
 私の疑問などよそに、橋川さんは続けた。


「でな、なんの因縁があるのか知らねーけど、同じ場所で同じように轢かれそうになったお前に、俺が取り憑いちゃったってわけ」


 何かの冗談にしか聞こえなかった。というより、まだ今ひとつ意味が分からない。
 怪訝な顔をしているのが分かったのか、橋川さんは手で髪の毛をくしゃっと掴むと、面倒そうに言った。



「まあ、つまりな、分かりやすく言うと。俺、お前から離れられなくなっちまったんだよ」