誰かが、私の夢の中に居た。男の子だった。彼は、私より少し離れたところに立っていた。黒い大きな瞳が、私を見つめている。歳はよく分からないけれど身長は低く、私と同じか、ちょっと幼くも見えた。
 私は男の子に駆け寄った。


「こんの、死に損ないが!」


 すると、いきなり怒鳴られた。びくっと私の肩が震える。驚いて目を見開いた私に、男の子はさらにいらいらした様子で続ける。


「なんであそこで橋がぶっ壊れたんだよ……お前、本当に死ぬと思ってたのに」
「え? なに言ってるの?」


 私がそう言うと、男の子は貧乏ゆすりしていた右足をぴたりと止め、私を睨みつける。
 見かけによらず、言葉遣いが悪いようだ。黙っていればその辺で歩いてそうな普通の少年なのに。


「あーあ、お前、なんで死ななかったの?」
「ちょっ……それって酷くないっ? 私がなにか悪いことでもしたの?」


 見ず知らずの少年に「死ねばよかったのに」なんて言われちゃあ、さすがにいらっとくる。私は少年に向かって声を張り上げた。

 少年は私の顔をしげしげと見つめた。そして、ちょっと考えた様子を見せた後、ゆっくりと目を細めて言った。


「ああ、でもな……やっぱお前は死なねえわ、うん」


 全くもって意味が分からなかった。


「ねえ、さっきからなんなの? どういうことなの?」
「でも、俺が困るんだよ」


 彼は私の話なんか聞いていないという風に、私を睨みつけた。怒鳴ったり考えたり睨んだり、随分忙しい人だなと思った。

 少年は、はあ、とため息を吐いた。
 それは明らかに、私に対する嫌味だとか嫌悪だとか呆れだとか、他にももろもろの負の感情が混ざっているように感じられた。