「山崎千郷?」


 橋川さんが、ふわふわと漂いながら私の名を呼んだ。
 それを聞いて私の口から出てきたのは、まぬけで素直な疑問だった。


「なんで分かるの?」
「ばっか、さっき名前呼ばれてただろ」


 まだ会ったばかりで「馬鹿」とは、まあなんとも失礼な。最近の少年の口癖なのかもしれない。

 私もよく言うから……いやいやそんなとんでもない、馬鹿だなんて言いませんよ、人のことを馬鹿になんてしませんよ、絶対に――となにかしたわけでも無いのに、勝手に脳内で弁解する。


「それにしても、さっきの看護婦さん可愛かったな。やっぱり大人って色気があっていいな」


 ばかやろう、そう思った。