「俺が怖いかあ?」


 じっと黙っていた私を見て、彼は少しおどけたように言う。正直言うと、その様子からして怖くない。


「悪いけど、全然」
「だよな」
「ねえ、橋川さ――」

「千郷?」


 私が目の前の幽霊に呼びかけようとしたとき。入り口の方から声がすると同時に、病室の扉ががらっと開いた。
 途端に私の心臓が跳ね上がる。

 だが、その姿を見てすぐに安堵した。


「お母さん……」


 無駄に綺麗に染められた、セミロングの茶髪――おそらく白髪染め――を揺らして、私の母はにっこりと笑った。


「目が覚めてたのね。調子はどう?」
「痛い」
「そりゃあそうね。左腕の骨、ひびが入ってるんだって」



 私は左腕を見る。包帯でぐるぐる巻きにされていて、その上しっかりと固定されていた。


 ひびが入ってる、ということを意識すると、余計に痛みが増した気がする。
 出血しているのに気づいたら痛くて仕方なくなる、というのと同じ現象だ。ちなみに私はそれを勝手に“気づいたらズキズキ”と呼んでいる。友達にそれを言ったら馬鹿にされたけど――というのは措いておく。