「えっと、ちょっといいかな?」
「なんだ?」
「……聞きたいことがいっぱいありすぎて分かんない」
「なら最初から聞くなよ……」


 彼はやれやれといった動作をする。じゃああなたは幽霊と出会って平常心でいられますか、と問い詰めてやりたい。


「橋川さん? は、どうやって私の夢の中に入れたの?」
「知らね。出来るかなって思ってやったら出来た」


 そう言いながら首を傾げる。やったら出来た、とはアバウトすぎる。
 本人にも分からないなら仕方ないのか、と思うしかなかった。私も分からないのだし、手がかりすらも不明なのだから。

 でも、一つだけ分かること。
 彼は、本物の幽霊だ。
 先ほど証拠らしきものを実践してくれたせいもあるけれど、そういうのを抜きにしても――なんとなく、本当に感じたままなんだけど――私の心の中に確信があった。夢のせいなのだろうか。


 今までテレビの心霊写真特集だとか見ていて、本当に幽霊に出会ってしまったらどうしよう、気絶するかも、写真は撮るべきか、いやそれよりも逃げるか……なあんてことを考えていたのだけれど。
 いざこんなことになると……脱力――というか「はあ、幽霊ですか」としか思えない。

 びっくりしているのは確かなのに、なぜだるう。
 ていうか、私が考えていた幽霊とは違う気がするんだ。もっと黒い気がたぎっていて、ぞぞぞって不吉なもやが襲い掛かってくるものかと……と言ったらちょっと言いすぎか。