「大変だねぇ、左右田さんも。しょうくんも大人気無いよ。相手は心偉さんなんですし。」
 心偉さんなんですし、ってなんだよ。
「おい、その心偉さんなんですしっていうのはどういう意味なのかな?一般人君。」
「あ、つい口が…」
 彼、甲原 一は苦笑を浮かべ、生気の宿らない心偉さんの目に睨まれいた。

 暫くして、青海 香良洲さんと三神 神成、ここの女将である雨唄 鼎、副将の神坂 恋が揃った。

「それでは、巫都さん。お食事をお願いしますわ。」
 彼女の一言で美味しそうな料理が出てきた。

 しかし和洋折衷も良いところだ。女将である雨唄 鼎は薄い青色のドレスを着ていて、背景は和風。神坂さんでさえ浴衣姿なのに、場をわきまえていないというか、わきまえた上の結果、というか…まるで、日本家屋に持って来られた西洋人形の様に見える。

 食事が一段落ついて、食後の飲み物を女中さんたちが配膳中、沈黙を1番に破るのは鼎さんだった。
「そういえば、三神さんは先程何をされてたんですの?」
 鼎さんはテーブルに肘をつき、三神に話を振った。
「お嬢の知り得るところじゃ無いさ、野暮用だよ。」
 あからさまに、面倒なので軽くあしらった様に見える会話だった。
 しかし、僕としても三神の行動の意義が気になるところだ。そんな気持ちを悟ってくれた訳じゃ無いだろうが、鼎さんは食いついてくれた。
「そんなことおっしゃらずに、教えて下さいよ。」
 三神は再びあからさまに面倒臭さそうに頭を掻いて言った。
「お嬢が館内は禁煙って言ってたからよ、散歩がてら一服してきたのさ。残念ながら面白いものは落っこちて無かったがね。」
「そうですか…では、香良洲さん。香良洲さんは何かありましたか?」
「昨晩からの出来事は特に無いですね。こうも変化が無いと、私の本分が果たせません。」
「そうですか。久しぶりに貴女の『謡謡』を聞きたかったのですが…」
「すみません、雇い主の期待に応えられない謡謡なんて、いてはいけないのですが。」
「そんなことありませんよ。変化を媒介とする謡謡にはここは檻みたいなものでしょうかね…」
 鼎さんは伏し目がちになり、純粋に落胆した。
「では、そろそろお開きにしましょうか。」
 神坂さんが立ち上がり、その場の主導権を引き継ぎ、皆それにしたがって部屋に戻った。