「朝から変なモノに絡まれるなんて…少年はツイてないねぇ。」
「変とは何かね、変とは。」
 ちょうど円卓の反対側に座っている女性、原尾 澪奈が目を細めてこちらを眺めていた。嫌味っぽさが無く、喧嘩腰ではない物言いで、現にリリスさんは笑いながら怒っていた。器用な人である。
 原尾さんは−これまた自称ではあるが−占い師で、有名人であると言っている。実際は宿泊客で知っているのは、一部の人間だけだったのだが。眉唾ものである。

「朝っぱらから元気だね、君達は。」
 背筋を伸ばし、原尾さんの隣の椅子に座っているのは、芸術家の山之々 孝喜さんだ。爽やかな笑顔は苦笑を浮かべ、二人のじゃれ合を眺めていた。
「おはよう、しょうくん。唯ちゃん。」
 灰色の髪の彼は、見た目こそ老けて見えるが、僕と五歳しか違わないらしい。見た目は四十歳位に見えるのだが。
「おはようございます、孝喜さん。今日はいつ頃向かえばいいですか?」
 孝喜さんは目を閉じて考え始めた。彼のタイムテーブルは殆ど埋まっているので、そこから空き時間を探しているのだろう。
「じゃあ、三時に来てもらえるかな?多分部屋でお茶でも飲んでるから。」
「わかりました、三時ですね。」
 唯は一瞥し、リリスさんに連れられて席に着いた。その隣に僕も座る。

「やぁ、おまけ君じゃないか、よく眠れたかい?」
不意を突いて空席のはずだった隣の席から声が聞こえた。
「なんだ、怠け者さんじゃないですか、気付きませんでした。お陰でぐっすり眠れましたよ。心子さんはいかがですか?その後のご様子は。」
「ああ、全く、全くもって順調だよ。君がここに来るまでの方が順調だったけどね。おや、別に君がここ、『雨唄』に来たことに文句は言ってないんだよ。ただ、事実としての原因と結果を述べただけでね。」
「僕も気にしてませんよ。あなたの事を一昨日、一目見た時から、すごく好みの人だなぁと思ってるんですよ?」
「あはは、私もさ、おまけ君。私も君みたいなお邪魔虫は大好きさ。」
「光栄です、怠け者さん。」
 服を後ろから引っ張られ、振り返る。そこには心配そうな顔をした唯がいた。先程の感情を一切表さなかった会話について、思うところがあるらしい。
「すまない。まぁ、毎回の事だし気にするな。」
 確かに顔を合わすといつも言い争いになってしまう。