《ごめんごめん、僕が君の知能レベルに下げて会話しないと君に不快感を与えるのを忘れていたよ、気が利かなくてごめんねー。》
「お前としゃべると、つくづく俺の気の短さを再認識しかねないな。」
 電話を切った数秒後、再びアイツはこの携帯電話に掛けてきた。
《そろそろ新しい仕事に就く頃だと思ってね、神成くんの性格上…『紅柳』か『黒鏡』の仕事じゃないのかな?》
「流石、というのは違うな。その通り、今回は黒鏡の方さ。矢文なんて古風なもの、初めて見たよ。」
 先程抜いた矢をまじまじと見ていると、あることに気付いた。
「あれ?これって…」
《多分君が言いたいのは、矢の特徴だろうね。黒鏡が扱う『疾屠』という弓式は、暗殺をメインとする。だから着いているはずの羽が無かったり、妙に矢が細かったり、鏃が小さく毒が付着してたりするよね?》
 まさにその通りだった。
「…愚問なんだろうが、何でそんなに詳しいんだよ。」
《何でって、そりゃあ…》

−僕も彼等に殺されたからね−

 翌日、やはり三神はやってきた。
「おう、やっぱお前の寝顔見るのは飽きねぇな。」
 朝起きて先ず目に入ってくるのがムサイ男なのは、どうもムカついて仕方がない。
「…なんで朝からいるんですか。」
「仕事は今日から一週間だ。実はもう6時間前から始まっている。」
 0時丁度から始まる仕事って何だよ。
「さぁ、行こうじゃないか、黒鏡へ。」
 部屋に響いたその名は、何故か地獄に似た響きだった。

「で、なんであなたは来ないんだ。」
「俺は俺ですることがあるんだよ。」
 黒のビートルを走らせる三神はこちらを向かずに答えた。
「だけどさ、黒鏡って何だよ。殺し屋って聞いたが…」
 三神は煙草の煙を吹き出し、手にした煙草の火を消した。
「そこまで知ってるんなら、教えることは数点だ。」
 三神は指を2本立ててこちらに向けた。
「敵意を示さない、見せない。あと、俺の名前だけは出すなよ?殺されるぞ。」
「………」
 お前、何したんだよ。
「んじゃ、そろそろ降りろ。ここからだったら4時間で着く。」
「ああ、わかっ…いや、もうちょっと近くまで連れていけよ!おい!」

 結局、目に入ったコンビニで一旦止まって、三神は帰っていった。
「…はぁ、行くは天下の黒鏡。生きて帰れるかなぁ…」