誰かが僕に言った。

「要するに、お前が必要とされてるんじゃなくて、必要としてるんだろう?」

それがどうした。

「嫌われ役を駆って出るのは、自己満足と、自己犠牲のためか。」

それがどうした。

「だからお前は彼女を求めるんだろう?」

それがどうした。それが何に関係ある。

「迷惑だからさ、失せな、坊や。」



 梅雨に入ってから良いニュースを聞かない。悪いニュースすらも。なんせこの部屋には情報を手に入れる手段が一つも無い。テレビも、ラジオも。あると便利なんだろうが、無くても困らない。そんな理由で携帯電話すら持たない僕には、郵便と固定回線の自宅電話しか連絡手段が無いと思っていた。
「しかし、これは郵便の一種…じゃあないよな…。」
 大学から濡れながら帰ると、ベッドの上部の窓ガラスが割れて、雨が吹き込んでいた。原因は床に突き刺さっていたこの[矢]だろう。このご時世に矢文とは、イカしたセンスだった。
「冗談はさておき…僕に刺さったらどうする気だったんだろう…」
 矢を抜くと、鏃の先に変な液体が付着していた。ありえるのは、毒であろう。殺す気満々である。
「こういう時こそ三神にどうにかしてもらうべきなんだろうが…」
 矢文の文の方を開くと、筆と墨で書かれたであろう手紙【だった】ものを確認した。残念な事に、雨に濡れ、字は滲み、読めるような代物ではなかった。一カ所を除いて。
「[黒鏡]…今回の仕事、命の危険性があるのか…」
 天井を仰ぎ、一点に集中する。今なら視線で人が殺せそうだ。…無理だろうが。
 急にメロディが流れ出す。携帯電話の着メロであろう音楽で、聞き覚えがある。雨唄館に行くときにアイツに持たされた携帯電話だった。それが机の上で鳴っていた。返したはずなのに。
 着信はもちろんアイツから。面倒臭いが電話に出ることにした。
「もしもし…」
《や、言葉遣い。いや、言葉遊びくん。僕だよ、分かるかな?おバカな君のために詳しく説明すると、去年の夏、君と海で出会って、ナンパした僕だよ。あ、海にナンパと難破を掛けてみたんだけど、おバカな君には難しかったかな?ゴメンねー、相手が僕と同じくらいフツーだともっと愉しくお話が出来るんだけどねー、けど君とじゃ難攻不落の城を攻めてる様で非常に苦し…プッ…》


切ってやった。