とてつもなく悪い夢を見た気がした。手は汗ばみ、額には玉の汗。夏でもないのに。
 雨唄館から帰ってきて一ヶ月、休んでいた大学にも通い、有意義に過ごしていた。アイツからは連絡は無い。唯は本家へ連れていき、傍には遣いの者がいるはずだ。そして僕は、大学と駅に挟まれた位置にあるアパートに住み、ゆっくりと大学生活を過ごしていた。ルームメイトは最近帰って来ない。実質的には、一人暮らし状態だった…
 はずだ。
「よう、起きたか言葉遣い。」

 誰か教えてくれ、何故彼がここにいる…?
「なんだぁ?言葉遣いは朝が弱いのか?」
「そんなことはありませんが…何の用ですか、三神さん。」
「三神と呼ぶなっての。その名前は嫌いなんだよ。」
 いや、何でキレるんだこの人。
「…神成さん、なんの用ですか?」
「いやぁ、この間の雨唄んところでのお前の活躍に見惚れてな、今回は仕事の依頼だ。」
「帰ってください。」
「だが断る。」
「……」

 何なんだ、一体。
「僕は仕事を選びます。」
「仕事はお前を選んだ。」
「僕、大学が忙しくて。」
「単位なら俺が大学から買ってやる。」
 無茶苦茶だ、この人。
 深くため息をついて、諦めた。
「分かりました。で、何の仕事です?」
 三神はシニカルに笑った。
「そうこなくちゃねぇ。これを読んでおけ。」
 三神が投げて渡してきた茶封筒は僕の蒲団の上にちょうど落ちた。多分偶然ではなく計って投げたのだろうが、距離にして5メートルもある。なかなかのコントロールだ。今そんなのは関係ないのだが。
「また、週末迎えに来る。それまでに熟読すればいい。じゃあな、言葉遣い。」
 そう言うと三神はこちらを見向きもせずに玄関から出て行った。

「…はぁぁぁ…」
 今度はもっと深いため息が出た。これはある意味健康に良くない健康状態だ。
「ストレスと怒りで寿命が縮まるのはいいけど…禿げたらどうしてくれるんだ。」
 三神が出て行った方を向き、宛ての無い台詞を吐き捨てる。ただ、虚しいだけだった。
 手を伸ばして取った封筒には何も書いてなく、傍にあった鋏で封を開ける。
「…これは…」

 入っていたのは数枚の美女達の写真と小冊子だった。写真には中学生位の子から二十代位の女性まで幅が広くかった。冊子には…

「黒…鏡?」