「よう、猩々と帝洛の二人、みっけたぜ。」
 廊下で三神とすれ違いざまに言われた。
「やっぱり二人とも死んでたぜ。死に様は…伝えるべきか?」
 声が笑っている。人の死をなんだと思っているんだ、とリリスさんに言われかねないぞ。
「絞殺死体だったぜ。内臓が出てない代わりに四肢が死んだ後に切り取られてたっぽいな。」
 猩々さんと神楽さんは厨房で働いていたので顔は覚えていないが、有様が目に浮かんだ。
「『縄みたいなモノ』で二人の首が木の幹に縛られてたぜ。ったく、朝っぱらから嫌なモノみたぜ。」
 声が笑っている。本心から思ってはいないのだろう。
「死亡推定時刻は?」
 気掛かりだったものを聞いてみる。
「そうだな…外気温のせいで死後硬直が早まっててな、それでも昨日の晩だろうな。俺らが食堂にいた時間が有力だろう。」
 分かっていた、分かっていたさ、そんなこと。

 人の死がこんなにも連続で起こるなんて、感覚が麻痺しそうだった。

 それもこれも、アイツのせいか…

「これからどうするんだ?迷探偵さんよ。」
「僕は『探偵ごっこ』なんてしませんよ。探偵なんて僕が一番嫌いな人種です。」
「だがしかし、お前のやってる事はそれに似たモノだぜ?」
 三神は鼻で笑った。僕も応えた。
「僕がするのは推理なんてものじゃない。ただの事実確認ですよ。」
「推理すんのはその他にさせるってか?言うねぇ。言うねぇ、言葉遣い。」
 三神は笑い飛ばした。何が楽しいのだろうか。
「ところで三神、頼みをもう一つ聞いてくれませんか?」
「なぁに、俺は頼みを聞くだけで利くのは気分次第だからねぇ。」
「じゃあ、その気分に期待しましょう。


 僕の頼みは…」

「鼎さん、伯楽さん、いらっしゃいますか?」
 鼎さんの部屋を訪ねた。すると、すぐに鼎さんが出て来た。
「あら、左右田さんの。何か御用ですの?」
「食事の時間を少し早めていただけませんか?そうですね…三十分でいいですので。」
「それは楽しいことですか?」
 何か感づいた様だ。
「楽しませてみせますよ、皆さんを。」
 それを聞くと、鼎さんは神楽さんの所へ行き、朝食を早めることを伝え、伯楽さんには宿泊客全員に伝えるよう指示した。

舞台は整った。あとは三神の機嫌と僕の読み、直感との勝負だ。