翌朝、天気は快晴に変わって、昨晩の雪で再び積もった雪を掻き分け、山之々さんの部屋の窓の外側へ来た。雪を少し掘ってみると、長い髪の毛を見つけた。窓の鍵は勿論空いていた。
「あとは…伯楽さんだな。」
 その場をあとにして、旅館内に戻ると良い匂いがしてきた。もう朝食の時間が迫っていた。

「あ、しょうくん。お帰りなさい。」
 食堂には伯楽さん以外誰もいなかった。
「ちょうどよかった、昨日の話なんだけど。唯の様子を見に行ってくれたのは伯楽さんなんですよね?」
「ええ、恋さんに頼まれて行きましたが、それが?」
「いえ、単なる確認ですよ。」
 そのまま礼を言ってその場から離れる。

「おや、おまけくん、奇遇だね。こんな時間に遭遇するなんてね。」
「おはようございます、怠け者さん。あなたはもう解答を見つけてるっぽいですね。」
「いやはや、何の事かねぇ。はて、もしかして澪奈くんと話していた事かな?」
 遠回しに情報提供してくれた。本当に憎めない人だ。
「言葉遣いよ、私は君の事は噂で聞いている。期待は裏切るなよ、おまけくん。」
 彼女にしては珍しいことを言う。皮肉以外で口を利いたのは初めてかもしれない。
「…みんな買い被り過ぎなんですよ。僕なんかより、周りが凄いから僕も凄く見えるんですよ。」
 見えないモノが観える奴、触れないモノに障れる奴。そんな人達と一緒にいる僕も、周りは凄いと言い、嫌う。
「私がお前の言葉遣いの能力がどんなイカサマなのか見抜いてやろう。」
「結構です。」
 即答し、僕はその場をあとにし、澪奈さんの所へ向かった。

「来たか、少年。」
 澪奈さんの部屋の前に着くと、ドア越しに言われた。
「いやしかし、今回ばかりは予想の内側をかい潜られた気分だよ。」
 僕は返事をしない。しかし、彼女は続ける。
「全く関係ないトリックを用いるなんてね。しかし存外にこれに気がついている人も数人いるんじゃないのかな。例えば…彼女、とかね。」
 僕は口を開けない。彼女は続ける。
「朝食時、ネタ明し、種明かしするんだろう?」
 僕は反応しない。彼女は続ける。
「そんなことより、私が気になるのはどうやって犯人をおびき出すか、なんだよ。」
 僕は…
「しっかり嬲ってくれよ、犯人さんをね。」

 僕は喋らない。彼女も黙った。