とりあえずその日は時間も遅くなり、全員が鍵の掛かる部屋で寝ることになった。
「猩々さんも神楽さんも、この雪ですから多分向こうのお家に泊めてもらっているでしょう。」
 伯楽さんがそう言うので、二人の心配はしないように努めた。

 鍵の掛かる部屋とはいわゆる洋室で、押し入れではなくクローゼットが、敷き蒲団ではなくベッドがあった。
「…で、ベッドが一個しか無いのは新手の虐めだな、分かった。」
 唯は一緒に寝ようと提案してくれたが、男と寝るのはまだ早い、と諌めてやった。惜しい気はしない。少しだけだ。
 むしろ唯は心配で寝れなさそうだったので、僕が起きておくのは唯の安心の為と、保身の為の警戒だ。鍵は全て鼎さんへ預けたが、奪われないという保証も無い。警戒にし過ぎは無いだろう。

 あっという間に唯は眠りにつき、呼吸音だけの静寂が訪れた。
 僕は必死に山之々さんとのやり取りを思い出しながら、事件の鍵を探した。しかし、これといって思い当たる節は無かった。最後の短い返事だって、彼だと確信は…

 あれ?そういえば、あの時短い返事だったが確かに何かが聞こえた。必死に言葉を探る。
「わか…った…」
 確かに、ドア越しだが彼はそう言った。では、彼はあの時生きていたのだろう。なんせ、そこにいたのはこの僕…


 あれ?

 また何かが引っ掻かった。

 力仕事を頼まれたのは僕だ。じゃあ、僕が来る前は?

 犯人の逃亡ルートは?

 無くなった臓器の行方は?

 あの黒いペンキは?

 唯が彼の部屋の前にいた理由は?

 そもそも、何でこうも『あの人』が頻繁に関わるんだ?

 男のいない旅館、男手の足りない旅館。

 山之々さんの滞在理由。

 最後に、犯人の行方。

「なるほど、だから全く分からないわけだ。」
 窓の外を見つめ、寒空の下にいると思われる『犯人』の事を考えた。

 圏外の携帯電話のフリップを開き、すぐに閉じた。

「ま、これ以上死人が出ることは無いだろうな…」
 確信のあることでは無いが、今、この時以降に人が死ぬことは有り得ない状況を作れただろう。
 それが、『犯人』の意図する所で無くても、だ。

「さて、さっさと朝になってくれないかな。早く伯楽さんに会わせてくれよ。」