「素晴らしい『作品』だこと。彼も一端の芸術家だけありますわ。」

 僕とリリスさんは、その言葉に唖然とした。
「嬢さん、それはいくらなんでも言っちゃぁダメだ。人間としてダメだね。」
 リリスさんは鼎さんを睨み、言った。
「人の死を、そんな言葉で愚弄したらダメだね。」
 いつものリリスさんとは違う、低い声で威圧してみせた。

 しかし、彼女…雨唄 鼎は首を傾げ、言った。


「あら、貴女は剥製にされた動物を見て、ドライフラワーをご覧になって、可哀相と思いますの?」


 リリスさんが鼎さんを見る目つきが変わった。ここにいる三神同様、鼎さんも人間ではないと認識すべきだろうか。
「あんたねぇ、言わせておけばっ…!」
 リリスさんが動いて、鼎さんへ張手を入れようとした。が、三神がその手を掴んで、阻止した。
「医者さんよ、今はそんなことよりこっちのが大事だろ?『人の命』の問題だからよ?」
 それを聞き、リリスさんは平常を取り戻し、死体へ向かった。

 その間も、鼎さんは『オブジェ』を見て笑ってた。


外は次第に吹雪始めた。


 全員が食堂へ集まり、事件に関わった者以外は(勿論人間じゃない三神も)夕食を食べていた。唯と伯楽さんが『オブジェ』を見なかったことは、不幸中の幸い…と言ったら、不謹慎だろうか。二人は仲良く食事を摂っていた。
「しっかしのぅ、なんでこんな事に巻き込まれるんだろうかねぇ。」
 行儀悪く、スプーンをくわえたまま、三神が僕を見て言う。
「僕に聞かれても、『わかりません』としか言いようが無いですよ。」
 不機嫌そうに聞こえただろうが、それでも構わない。巻き込まれたのは僕らも一緒なのだから。
 すると、あることに気がついた。
「猩々さん、帝洛さんは今どちらに?」
 伯楽さんが辺りを見渡し、言った。
「ここ、『雨唄』には電話がございませんので、二人には電話を貸してもらえる家へ行ってもらいました。」
「そうですか…じゃあ、神坂さんは?」
 伯楽さんが俯き、言った。
「恋さんは…所在が不明です。」
 その発言に甲原くんが食いついた。
「え…それって…彼女が一番怪しいじゃないですか。」
 その通りだ。気にはなっていたが、逃亡したとも考えられる。しかし、外傷は開かれた腹部だけ。疑問は多い。