「どきな、そして離れな。危ねぇからよ。」
 黒い何かを扉の鍵の部分に貼付け、その上に水袋を被せ、そこからコードを引き小さな箱に繋げた。
「三神…それは?」
 遂に疑問を口にしてみた。
「これかい?これは閃光弾の一種で、『スタン・ミューニション』という。」
 そこまで言うと、箱のボタンを押し、爆音と共に水しぶきが拡がった。勿論、僕と三神だけが浴びて、唯と伯楽さんにかからないように壁になった。
「さて、行こうかねぇ?」
 三神はシニカルに笑い、僕らの先頭に立った。


部屋に入ると、そこは真っ暗だった。

否、そこは真っ黒だった。


 部屋の入口のスイッチを触る。ぬめっとした感触に驚き、自分の手を見ると、黒く汚れていた。
「…何だ、これは?」
 部屋中満遍なく真っ黒だった。まるで…
「おいおい、誰だよ。こんな所でペンキぶちまけた奴は。」
 三神は皮肉そうに言った。そう、まだ微妙に乾いていないペンキが部屋中、余す所無く塗られていた。三神の言う通り、ぶちまけた、の方が言葉的に似合うだろう。
「おい、おまけくん、あの部屋の角にあるエグい『オブジェ』は何だと思うよ…?」
 三神が指指す先には…人型の『オブジェ』がこちらを向き、肢体は『く』の字に曲がり、心臓に肺、腸が飛び出していた。
「しょうくん様、三神様、山之々様に何か問題でも?」
 部屋に入ってこようとする伯楽さんを唯が止め、首を横に振って『行くな、干渉するな』と伝えた。二人はまだ部屋の外にいる。
「すみません、伯楽さん、鼎さんと神坂さん、あとリリスさんを連れて来てください。残りの宿泊客、職員は食堂へ集合させてください。」
「…わかりました。」
 もうすぐ夕食の時間なのにこんな『オブジェ』を見て、それでも食事を欲する胃を持ち合わす人間はいないだろう。そんな奴は、人間ではない。
「あー、腹減った。晩飯なーにっかなー。」
 三神が天井を見上げ呟いた。僕の中で彼はたった今、人間じゃなくなった。

 リリスさんと鼎さんが着いたのは、伯楽さんを向かわせて5分後だった。
「ちょ…なんね、これ…」
 リリスさんは顔をしかめ、口を手で覆った。流石に医者といえど、誰しもが死体と関わってる訳じゃないから、当然の行動だろう。

 一方、鼎さんは『オブジェ』を見て、微笑んでいた。