無事に試験の全日程を終えたマキオはその帰りにリュウが入院する病院に立ち寄ることにした。
 青葉会総合病院――
 マキオは診察室のある1階を階段で昇り、2階病棟のナースステーションでリュウの病室を尋ねた。
「すみません」
「はい」
 1人の看護師がマキオのもとにやってきた。
「昨日、こちらに入院した藤真竜の病室はどちらですか?」
「藤真さんですか? その方なら昨日お亡くなりになりましたが……」
 心臓が急激に速まる。
「搬送されてきた時にはすでに心配が停止していて、こちらも手は尽くしたんですが……お気の毒に……」
「そうですか……」
 マキオは放心状態で病院を後にした。
 矛盾。ショウとカナと、看護師の相反する言葉。信じたい言葉が偽りで、信じたくない言葉が真実で――わかってるけど――信じたくない。それは矛盾ではなく、嘘。マキオはすぐに理解した。あれはショウとカナが自分のためについてくれた嘘だと――。リュウに対する想いと自分に対する想い。マキオはそんな2人の想いを痛いほど感じていた。込み上げる涙を必死で堪えた。ここで泣くわけにはいかない――認めたことになるから……。

 マキオはリュウとの“共通の場所”に向かった。
 カフェ・レノン――
 マキオは入口の扉の前で一呼吸おいた。もしかしたらリュウがいるかもしれない。いつものようにクリームソーダを飲んでいるかもしれない――。