“カランカラ~ン”
「いらっしゃあ……!? ショウちゃん!!」
 マダムの言葉にとっさに振り向いた人物が2人。リュウとカナだ。
「ショウ……カズ……!!」
「ショウ……くん」
 現れたのは2人の男。“ショウ”と呼ばれる長身でロングヘアー、色白で端整な顔立ちの男と、“カズ”と呼ばれる小柄で童顔の男。
「オ、オマエら、どうしてここに?」
 リュウはその場で立ち上がり2人に問い掛けた。
「この店の名前はカフェ・レノン。俺のフェイバリットはビートルズだぜ。その俺がこの店に来ても不思議じゃないだろ?」
 ショウが淡々と答えた。
「そうじゃない! どうしてオマエらがこの街に、東京にいるのか聞いてるんだ!」
 リュウがさらに問い詰める。
「そんなことか。同じだよ、オマエと。音楽でプロを目指すもんが夢を求めて東京に来るのは至極当然のことだろ? 簡単な話さ」
 ショウに動じる様子はない。
「オマエ、まだ音楽やってたのか……。そうか……」
 リュウは感慨深げに呟いた。
「それはこっちのセリフだ! オマエこそよくものうのうと音楽なんかやってられたもんだな!」  
 ショウの口調が少し荒らぐ。
「……」
 リュウには返す言葉もなかった。
 この2人に何かしらの関係があることは事情を掴めないマキオの目にも明白であった。カナが言っていた“リュウの過去”に関係しているであろうことも推察できた。今ここにリュウとショウの関係を知る者は当人以外で3人。カナとマダムとカズだ。そのカズがマキオの存在に気づいた。
「リュウさん。もしかしてそこに座ってるオタクっぽい奴は、まさかリュウさんのツレじゃないですよねぇ?」
「そうだ。マキオは俺のツレだ」
「ハハッ。マジっすか!? 冗談でしょ? 藤真竜ともあろう人がこんな冴えないダサ坊とお友達なんて。パシリの間違いでしょ?」
「人を見かけで判断するなっていつも言ってるだろ! カズ!!」
 リュウは血相を変えて叱咤した。
「はい! すいません!」
 リュウの剣幕にカズの体が反射的に竦んだ。それは恐怖からだけではない、2人の関係性を象徴するかのような行動。どうやらこの男もまた“リュウの過去”に何か関係があるようだ。