「オイッ! 何か言えよ! 真面目に話したこっちが恥ズイだろ!?」
「あ、あぁ。なんかイイこと言うなぁと思って」
「う、うるせぇ! もうこんな話しねぇからな! イメージが壊れるだろ!」
「イメージって。誰に対しての?」
「そ、そりゃ、ファンのコ達だよ。“下ネタは言いません”とか“オナラはしません”とか“トイレには行きません”とかだなぁ、いろいろあんだよ!」
「80年代のアイドルじゃあるまいし。そもそもファンなんているの?」
「い、いるよ。あったりめぇだろ! 俺が路上で歌おうもんなら女の子達がワンサカ集まっちゃってもう大騒ぎなんだから。最後には収拾つかなくなって警察の出動よ」
「ふ~ん。大騒ぎねぇ? 秋葉原じゃ誰もいなかったけど? 確かに警察が出動してたけど、怒られてたんじゃないの?」
「お、お前! 見てたのか!? あ、あれは、あれだよ。100回のうちの1回はあんなこともあんだよ。たまたまその1回を見ちゃったんだな。そうそう」
“ブッ”
「あれぇ? しないんじゃなかったっけ? オナラ」
「し、してねぇよ」
「したよ、今」
「はいはい、しましたよ。俺だって屁だってこくし、便所だって行くし、下ネタだって言うんだよ! ウンコチンチン」
「はは。何それ。カトちゃん? 古いよ」
「俺のリスペクトは泉谷しげるなんだよ」
「意味わかんない」
「テメェ、バカにしてんだろ!?」
「してないよ。ははは」
「い~や、してるね」
「してないって」
 マキオは笑った。愛想笑いなんかじゃなく、心の底から笑えていた。マキオは気づいていないかもしれないが、そこにはごく普通のありふれた日常の時間が流れていた。

 そんな平穏な時間を脅かす2つの影――