「リュウは……リュウはなんでミュージシャンになりたいの?」
「俺? 俺は……好きだからかな、音楽が。やっぱり、好きなミュージシャンや憧れのミュージシャンているわけで、そういう人達に影響を受けてきたし、そのおかげで今の自分があるし、もっと言うと音楽だけじゃなく人生まで影響された。それってスゲェことだと思うんだ。人が人に影響を与えるって。自分1人のものだと思ってた人生に他人が介入することで物の見方や感じ方まで変わってしまうことだってある。いい意味でも悪い意味でも……。諸法無我――人間1人じゃねんだよ。いろんなものに支えられて生きてんだ。だから俺は自分の人生に影響を与えてくれた人達のように誰かに影響を与えられるような人間になりたいんだ。もちろんいい意味で。俺の場合、それがたまたま音楽だった。“それだけ”って言えばそれだけだけど、でもやっぱり俺にとってはそれだけじゃねぇんだ。うまく言えねぇけど……。“人間というのはいかなる場合でも、好きな道、得ての道を捨ててはいけないものだ”ってな」
「……」
 マキオは正直驚いていた。世俗的な音楽を好み、奏でる者の、ましてプロになろう者の考えなど所詮浅はかであると決めつけていた。リュウに対しても例外なくそう思っていた。だけど、この男は違った。この男の視点は別の場所を捉えていた。それがたまたま音楽だった――「自分にとって司法試験は“たまたま”なんかじゃない。司法試験じゃなければダメなんだ。意味がないんだ」動機としては間違っていないのかもしれないが、考えが浅はかだったのは自分の方ではないか? マキオはそんな気がしてならなかった。