右手に血のあと――マキオはリュウの用事を悟った。確信と同時に湧き上がる得も知れぬ感情。怒りでもない、悲しみでもない。喜び? ただ、言葉にすることはできる。マキオは心の中で呟いた。ありがとう――
「なにニヤニヤしてんだよ?」
「し、してないよ」
「してんじゃねぇかよ。気持ちわりぃなぁ」
「そ、そうだ。リュウって広島の人なの?」
「なんだよ急に。違うよ。群馬だよ。群馬県高崎市。だるま弁当の高崎。」
「そうなんだ。ほら、初めて会った時“どこ見て歩いとんじゃワレェ”って。あれって広島弁でしょ?」
「あれは、兄貴だよ」
「兄貴? 兄貴って水木一郎?」
「ちげぇよ! なんで俺がアニソンの帝王を慕うんだよ! 兄貴っていったら竹内力でしょ。ミナミの帝王よ。自分の常識を世間の常識だと思うなよ」
「哀川翔じゃなくて?」
「哀川翔も兄貴だけど俺にとっての兄貴は竹内力なんだよ!」
「ふ~ん。世間の常識ねぇ」
「う、うるせぇ」
 そうこうしているうちに2人はカフェ・レノンに到着した。
「リンちゃんいるかなぁ?」
 リュウは茶化しながらドアノブに手を掛けた。
「やめてよ」