『ここに来る時、雪が降って来たわ』


マスターのさりげない気遣いに感謝しながら、わたしは笑顔で答えた。



『なるほど』


マスターはそう言って、大きく頷いた。



わたしより少し後にこの店に入って来た男性が席を立ち、レジへ向かう。


もうすぐ午後5時になろうとしていた。


『けしからん彼氏はほっておいて、暖かい飲み物でもいかがですか?』



会計を済ましたマスターが、おどけた仕草でわたしにメニューを差し出した。


『そうね』


マスターのその仕草がおかしくて、わたしは少し笑ってメニューを受け取る。