運ばれて来たコーヒーカップの温もりを、両手でそっと確かめる。


その手に涙が滑り落ちた。


一一別れたくない一一


思わず溢れ出した、本音。


コーヒーカップの暖かさは、あの頃と何ひとつ変わっていないというのに。


『う……っ……』


堪えきれない鳴咽が、周りの人に聞こえないか心配になって顔を上げた時、店内に流れていたJazzのボリュームが少し上がった。


サックスの音が、わたしをそっと包む。


その優しい抱擁に、身を任せた。