「もう!アンタになんか期待しやしないよ!!」


食べかけのお弁当を手で払い除けたら、パラパラと床におかずがこぼれ落ち、微かな物音が部屋に響いた。



CM明け。そんな事も気にせず、ドラマへと目を向けた。


激しくドアの開く音がして、ガサガサと奥の部屋で荷物をまとめる気配を感じた。



次に姿を表した時は、花柄のボストンバックを右手に抱え、涙のせいでマスカラが落ち、パンダのような顔になったミユキが立っていた。



「さようなら」



俺は相変わらずテレビに夢中になっていて、ミユキの顔さえまともには見ていなかった。


ミユキが部屋から出ていった後、途端にドラマは色褪せて見えた。



半年か。心の中で呟いた。


そして「ほら、お前も離れていった。」とも。


ミユキが散らばしたお弁当を片付け、生ゴミいれにぶっこんだ。


つくづく女は感情で動く生き物だと思った。


感情で動く全ての物を、俺は信じられない。


'情'がつく物、全てが嘘臭く感じる。


愛情

同情

感情



ドラマからはエンディングの曲が流れていた。


今クール期待の、月九ドラマ。


掲げる謳い文句「愛より大切な物はない」



愛を信じない俺は、作り物のこの手のドラマが大好きだ。



作り物であるドラマというのは、作り物であるが故、この世に全く愛など存在しないことを、キチンと俺に証明してくれる。




ドラマのエンディング曲に合わせ、窓を開ける。


クーラーより、もっと気持ちの良い風が肌を通り抜けていった。



二十歳の夏。



あと何十年も続くであろう自分の人生を


確かに俺は冷ややかに見ていて、絶望していた。