思わず教室を飛び出した。




向かった先は公園。


尚と学校帰りによく寄った公園だ。




小さい子が遊んでいる。

すると、その中の一人の女の子がこっちに近寄ってきた。



「…なんで泣いてるの?」



そう言ってあたしの涙を拭ってくれた。



「……ありがとう」



これしか言えなかった。


小さな女の子の温かい優しさが冷えきったあたしの心に広がった。



「遥香(はるか)。何やってんの?」


「あっ、お兄ちゃん…」



声のする方を見ると、あたしと同じ中学の制服の男の子が立っていた。


身長はあたしより低い。


かっこいいというより可愛い感じ。



「遥香、お母さんは?」


「あっちで話してるよ~」


「そっか、じゃあお母さんのとこ戻んな?」


「わかった♪バイバイ、お姉ちゃん☆」


あたしにそう言い残してお母さんのもとに行ってしまった。



「…坂口だろ?」


いきなり自分の名前を言われて反射的に顔を上げる。





「……なんで知ってるの?」




「前、入学した頃…いや、なんでもない。
…野宮の彼女だったろ?」




野宮……


尚の名字。




改めて聞く尚の名前。

まだ少し懐かしい。




「…気にすんなよ?」


何気ない男の子の一言が嬉しかった。

小さく頷くあたし。


あたしの頭に男の子が手を乗せ、撫でる。


あったかい……―


心が温まる気がした。





「俺、舟本遼(ふなもとりょう)」


いたずらっ子のような笑顔で言う。


とても可愛い。




その笑顔につられて微笑むあたし。


「…うん。遼って呼んでいい?」


「…いいよ」





…遼。




心の中で呟く。



どこかで会ったような気がして見つめる。


わからない…。