「……へ?」
「べっつにー」
そう言って、再び正面から慶兄は私を抱き締めた。
大きな慶兄に、すっぽりと包まれてしまう。
「もお、意味分かんない」
「分かんなくていい」
のらりくらりと私の疑問を交わすのは、私よりも年上だからなのか。
わざと掴めないようにしているのか。
「あいつらが来るまで充電」
「私が充電器?」
「そうだよ」
ギュウギュウと抱きすくめてくる慶兄のせいで、息が苦しい。
こんな所誰かに見られたら、きっと私は恥ずかしさで死ねるかもしれない。
雨は依然降り続けていて、まるで私の心模様を映しているようだ。
暖かい温もりと、少しの息苦しさが心地良い。
胸に押し当てた頬に、慶兄の声が響いてくる。
「このままどっかに連れ去っちまいてえ」
「誘拐はダメだよ」
いつまでこうしていらるるだろう。慶兄はずっと私のそばに居てくれるのかな………?
こんなやり取りが、私にはちょうどいい。
私はそう思っているけれど、慶兄はどう思っているんだろう。
「本当に意地悪だな」
「どっちが!!」
この関係を、私は守りたい。
壊れてしまう事が、何よりも怖かった。