でも決して、慶兄は無理強いはしない。
どんな時でも、必ず私の気持ちを分かっているようで、からかう程度だ。
何もしてあげられていない分、慶兄の気持ちに応えたいとはいつも思う。
でも、私にはできないようだ。
「嘘だよ。…コレでいい」
優しく私の頬に触れると、慶兄は軽く私の唇を塞いだ。
慶兄にキスをされる度に、胸の辺りのモヤモヤした物は日々大きくなっていく。
そのたびに、自分は最低な人間だと自問自答するような日々だ。
優しく包み込むような慶兄の唇は、私の心と言う意志を強くさせる。
どうして私は慶兄を心から思えないのだろう。
どうして私は………。
唇が離れると、慶兄は私をギュッと抱き締めた。
暖かい温もりは、心を落ち着かせてくれるようだ。
ふんわりと香る慶兄の香りが、私の脳を麻痺させる。
「……はあ……落ち着く」
「抱き枕じゃないからね」
こんなにも優しさを与えてくれる人を、私は裏切っているんだ。
私は慶兄に相応しくなんかないんだよ。
私は最低な人間なんだよ。
それ以上の事だって、あっても当然だと思う。
この数ヶ月、あれ以来慶兄は私を抱こうとはしなかった。
ただ優しく抱き締めたり、キスを振らせてくれるだけだ。
「んな事思ってねーって。」
クスクス笑う慶兄の笑顔さえ、罪悪感からか素直に笑い返す事ができず、曖昧に笑うしかなかった。