湿気を含んだ匂いに、雨足の強い音がする。
気温も高くて湿度もあるはずなのに、何だか芯から震えがくるように寒い。
ずーっと胸がモヤモヤしていて、それがいつから始まったのかすら覚えていない程前からだと言う事に、何もかも考える事がどうでも良くなった。
意志があるから、絶望するんだ。
感情があるから、泣きたくなるんだ。
だったらそんなモノ、捨ててしまえばいい。
無くしてしまえば、傷付かない。
闇は1人ぼっちと言う事を、強く感じてしまうから、嫌いだった。
だから今の時期は、灯りは消さない。
特に雨の日は、何か思い出してしまいそうで怖かった。
フラッシュバックしてしまいそうになる事を、ただ耐え忍ぶ事でいっぱいいっぱいだったから、私はひたすら殻に閉じこもったんだ。
その殻が、だんだんと厚くなってしまって、自分からじゃ外へ出る事なんて出来なくなっちゃったんだ。
感情は殺す。意志は捨てる。
私が身につけた、厚くて破れそうにない唯一の武器になっていた。
でも、誰かがそれを壊そうとして、少しだけその殻から光が差してしまう。
必死に身を縮めるのに、その光は眩しいくらいに閉じた瞼を赤くした。
誰にも見られたくないの。
誰にも見せたくないの。
泣いてすがれる程、私は素直になる事まで出来なくなってるから。
こんな雨は嫌だ。
鍵をして閉じ込めていた記憶の、蓋を開ける鍵になってしまいそうだから。
もう目の前には、あの日と同じ日付が迫っていた。