その言葉に、何だか胸に引っ掛かる物が生まれる。
「やっぱりそうだよねえ…」
「ん?どうかしたか?」
私の言葉を不思議に思ったのか、慶兄が手元から視線を上げる。
「うーん?あのね、そう言えばみんなと海とか泳ぎに行った事ないなあって」
高校生の頃も、大学に入ってからも、夏休みの予定に必ずと言っていい程、周りの人達は水着を着る機会を予定に入れている。
ましてや、龍雅なんか率先して予定を組んでいるはずだったのに。
なのに、今更だけど何故?
「あ〜…それか。うん、確かにな」
「…え、なに?何かあるの?」
「え?ん〜…アイツの株を上げるつもりはないんだけど」
「アイツ??」
まさか理由があるなんて思っても見なかった私は、少し声を潜めるようにした慶兄に、そっと近付いた。
全く想像もつかない私は、短時間の間に、いろいろな想像をしてしまう。
まさか男子全員、カナヅチとか。
それとも、実は美春と付き合ってるから、私と美春には内緒で、男子だけで遊びに行ってたとか!!
…なんて。
株が上がるような話なら、そんな理由じゃない事ぐらい分かる。
「瑠衣斗だよ。アイツが、ももが悲しむから行かないって」
「…へ?意味が分かんないんだけど…」
「ももさ、毎年家族で夏休みに、海に行ってたんだろう?瑠衣斗がももから聞いたって言ってたなあ」
……あ。そう言われれば…。
言われた言葉に、当時の記憶がうっすら蘇る。
本当なら、私も行くはずだった旅行には、いつも家族みんなと海へ行く予定があったんだ。
「だから、思い出させると、またももが悲しむ事になるだろうって」