「なあ、知ってる?医学上、血液の癌って、平仮名で「がん」って表記されるんだって」



「…癌?」



「悪性リンパ腫。血液のがんだったんだ。若いと…特に成長期の若い人間だと、細胞の発達と共に癌細胞も発達して……進行が物凄く早くて、おまけに体力もなかったから…寝返りだけでも、……想像もつかねー程、全身が痛むらしい」




今、どんな言葉を掛けても、ありきたりな言葉になってしまうだろう。


気休めにもなりもしない。何の慰めにすらならない。


むしろ私が、一番そんな言葉聞きたくもなくて口を閉ざしたんだ。



「俺が…あの高校に行こうと決めたのはさ、あいつの病室から……俺らの高校のパンフレットが出てきたからなんだ」



「パン…フレット…?」



「そう。最後のページに、やっと読めるような字でさ、「ここで運命の出会いをするぜ」って。アホだろう」



笑っているようにも見える瑠衣斗は、髪で顔を覆われていて表情が伺えない。


うなだれるようにして、立てた片足に腕を放り出し、その腕の指先が、小さく震えている。



「好きな奴…アイツ居てな?その子があっちに転校したらしくて。一人暮らしを許してもらえる歳が、中学卒業してからだって考えたらしくてさ。有名な高校通って、高校デビューして、会った時にビビらせてやるって。…そんなけの理由で」



純粋すぎる想いと、瑠衣斗の優しすぎる想い。


いつの間にか景色が歪んで見えている事に、私はなす術もなかった。



「本当に…マジで…アホだ。俺」


掠れた声が、絞り出されるようにして耳に届く。



何も言うことができない自分に対して、感じた事のない程の怒りがこみ上げた。