瑠衣斗の実家は、元々は旅館。
何気なく瑠衣斗が言った、瑠衣斗が中学を上がる前くらいに旅館を辞めたと言う話に、胸がズキズキと痛む。
辞めた理由…なのだろう。
「それから…俺も中学上がって、すぐ退院するっつってたのに隣町のでけえ病院に移って…俺が顔出す度に、どんどん痩せてったんだ」
「…うん」
きっとご両親は、弟さんのために旅館を辞めて、看病に徹したのだろう。
どんな生活だったのだろう。
毎日、何を思って過ごしていたのだろう。
瑠衣斗の過ごしたこの学校には、瑠衣斗の中学時代の思いを知る術は、きっと無い。
「手術も移植も何度もしてたからだと思ってた…。移植すれば治るからって。俺は何も知らなさすぎたんだ」
一時期話題を集めた、臓器移植。
今となっては、当たり前になりニュースの話題にすらならない。
でも、こんなに身近でそれを耳にするなんて、思ってもいなかった私には衝撃的すぎた。
「久斗が、俺に電話してきたんだ。中学が見てえって。俺が中2の時に」
もう、相打ちすらできない私は、まるで現実じゃないような話に、思考がついて行かない。
「来年から通う学校が見てえって。だから行ってもいいかって」
何となく、うっすらと先が見えてしまう。
私はそれを掻き消すように意識を逸らそうとも、頭の中に様々な光景が広がる。
「お袋らは心配しすぎで許してくれねえから、俺にどうしてもって。もう動いても平気だから、心配はねえって…」
だんだんと、話をするにつれて苦痛に歪んでいく瑠衣斗の表情。
そんな瑠衣斗に、私は掛ける言葉も思い付かなかった。