「全部じゃなくてもいい…私に話してほしい」
それで瑠衣斗が楽になるかは分からない。
でも、抱えているモノが、少しでも軽くなってくれたら……。
ゆっくりと唇を離すと、瑠衣斗がそっと私の体から腕を離す。
私と瑠衣斗を隔てている机1つ分の距離が、今はもどかしくてたまらない。
しんと静まり返った教室内は、私の心を波立てていく。
瑠衣斗が何だか消えてしまいそうな気がして、居ても立ってもいられなくなった私は、ガタンと椅子から立ち上がった。
それに反応するように、私を上目で見上げた瑠衣斗が、何だか不安に揺れ、泣き出しそうな子供のように見えて、胸が詰まった。
「よく教室で床に座って話たでしょう?」
「…は?」
「早く立って。もっと近くに居たい」
突然の私の提案に、状況が読めていないような顔をしたままの瑠衣斗を、私は手を持って引っ張った。
掴んだ瑠衣斗の指先は、もう夏だというのに驚くほど冷たい。
連れられるがまま、渋々腰を下ろした瑠衣斗を確認すると、そのまま瑠衣斗の隣へと腰を下ろす。
後ろから見る教室内は、綺麗に清掃されていて、視線が下のせいかまた違った景色に見える。
瑠衣斗とよくこうして、教室を眺めながら他愛もない話をしていた頃が、昨日のように思えた。
休み時間になると、よくこうして教室の一番後ろの床で座り込む瑠衣斗の隣で、私は高校時代を過ごしてきたんだ。
「何か懐かしいね」
あの頃、私はどんな気持ちで瑠衣斗の隣に居たのかな。