「広すぎて、校舎内見て回るだけでも疲れるけど…」



「迷子になっちゃうの?」



「…ならねーよ」




今日は部活もないのか、生徒の姿は見当たらない。


ただ、こうして中に入れるのは、先生が来ているからなのだろうか。



瑠衣斗に連れられるがままついて行くと、ようやく人を発見する。


その姿は後ろ姿ではあるが、初老のような佇まいで、肩は丸く、白髪混じりの姿に何となく緊張する。



校舎に沿って歩くと、職員室のような室内が外から見え、中の人達がそんな私達の姿に振り返る。


思わず斜めから頭を下げようか迷っていると、横を向いたままの私達の正面から、声がかかった。



「…ん?瑠衣…?瑠衣か?」



その声は、予想した物よりも力強く、でもとても優しくて、やっぱり懐かしく感じる。


前を向き直ると、その人物が穏やかな顔で、皺を沢山作った笑顔で瑠衣斗を見つめていた。



おじいちゃん先生だ…。何かるぅが大きすぎるせいか、余計にちっちゃく感じるなあ……。



「久しぶり。橋田先生…煙草減らせよ」



瑠衣斗の声に笑う橋田先生は、物凄く穏やかな笑顔で煙草を加え、一口大きく吸って見せた。



「お前に言われても、説得力も何もないなあ」



「…あっそう」




そんな事を言って笑っていた橋田先生が、私に穏やかな顔を向ける。


ドキリと反応した私は、慌てて頭を下げる。


「あ…えと、初めまして。唯ノ瀬ももです」



顔を上げた私に向かい、橋田先生は目を細め、優しく微笑んでくれた。