「牛だ!!牛!!うしい〜!!!!」


建物に近づくにつれて、建物の向こう側に広がる景色に言葉を失った。


勢い良く元気良く車を飛び出した龍雅は、私の目の端を駆けていく。


龍雅ってば、女の子も大好きだけど、きっと牛も大好きなんだ。


そんな事を考えていると、ふと自分に向けられる視線に気付き振り返る。


薄く笑みを浮かべた瑠衣斗が、上から目を細めるようにして私を見つめる。



「背はもう伸びねえだろうけど」


「!!」



「せめて横につけとけ」



「!!!!」



後ろからは、クスクスと笑いを漏らす宗太が、そのまま何も言わずに車を降りていく。



「お〜い。せめて人間だけにしとけよ〜」



のんびりとした歩幅で、そんな事を叫びながら龍雅の後を追う様子が、またしても目の端に映る。



「…降りるぞ」



やっぱり瑠衣斗も笑いを堪えながら、車を降りる。


対して私は、イライラとドシドシと芝生を踏みしめるように降り、そんな私に向かって瑠衣斗は驚いたように一瞬目を見開いたかと思うと、次の瞬間には堪えきれなかったような笑い声が響き渡った。



「なによー!!牛乳たくさん飲んでも伸びなかったのよー!!」



そんな私の叫びは虚しく、更に瑠衣斗の笑い声に拍車をかけただけだった。



澄み渡る青い空に、瑠衣斗の笑い声と、少し離れた所から龍雅と宗太の声が広がる。



「余計なお世話よー!!」



そして、そんな私の声も、広がる空に響くようだった。