とりあえず、隣の不機嫌な人物は置いておこう。
キリがないしね。
本堂に近付くにつれ、川の音が聞こえてくる。
深く息を吸い込んでみると、土や木の香りが濃く鼻につく。
広い敷地内は、ガランとしていて、石碑や屋根のついた舞台のような物がある。
よく神社で見るけど……何だろう。
何もかもが新鮮で、見るもの全てに興味がそそられる。
舞台のような物を通り過ぎ、本堂を見上げた。
本堂は、何だか中に入ってみたくなるような、私の子ども心をくすぐる。
「ねえ、ちっちゃい頃は中に入ったりしてたの?」
「入ったなー。たまたま来た知らないばーさんに、罰当たるぞって怒られた」
そりゃそうでしょ。とも思ったが、瑠衣斗の思い出話に笑いが漏れた。
機嫌の直ったような瑠衣斗の口振りには、懐かしさも含まれているようだ。
小さな頃の瑠衣斗が、目の前に現れるようだった。
広い敷地内で、小さな瑠衣斗はどうやって過ごしたのだろう。
「よくそこで、中学生の頃は寝てた」
振り返って指を指した先は、先程の舞台のような所だ。
「ここで?随分家の近くでサボってたんだね」
「腹へったらすぐ帰れるから」
探検と言うよりも、何だか瑠衣斗の思い出巡りのようだ。
せわしない毎日から、解放されたように気持ちが軽い。
どこまでも澄んでいる空気は、私自身を浄化してくれるようだ。
雨はまだ降っているのか、止んでいるのかも分からない。
近くに感じる瑠衣斗が、私の意識を全て持って行ってしまうようだ。
「久々に来たなあ…中学ぶりかな」
懐かしむ瑠衣斗の言葉が、私の胸を締め付けた。