旅館を営んでいたぐらいだし、おもてなしの心って言うのかな。
何だか久しぶりに感じた感覚が、何なのか分からないが心がポカポカする。
それはきっと、私が忘れていた気持ち。
蛇口を捻ると、驚くほど冷たい水に目が一気に覚めるようだ。
朝から感動しながらも、冷たい水をすくって顔を洗った。
「ありがとうございました」
「はいは〜い。適当に座って〜♪」
テーブルには、正に旅館の朝ご飯のような朝食が並ぶ。
卵に焼き魚、お味噌汁に味付けのり、と言った美味しそうなメニューに、朝から食欲がわいてくるようだ。
よく見ると四人分用意されてある。
おじさんとおばさん、そしてもう一つはるぅ…だよね?
そう言えば、るぅはどこ行ったんだろう。
「ふふ。瑠衣ならもう帰ってくるわよ」
「えっ、あ、そう…なんですか」
突然言われた言葉に、顔が熱くなる。
な、何で分かったんだろう。今思った事……。
ドキドキして何も言えないでいると、おばさんは何か企むような顔で私の顔を覗き込む。
「気になってたでしょ?あ〜あ、ももちゃんみたいな子が彼女ならなあ〜」
「はいっ!?」
予想もしなかったセリフに、素っ頓狂な声が飛び出た。
悪戯っこのように言うおばさんは、本気なのか冗談なのか読み取る事もできない。
言葉も出ない私に向かって、再びおばさんが楽しそうに口を開いた。
「あの子、女の子連れて来るの初めてでね〜。今までの瑠衣からは想像できないわ♪」
「初めて…ですか……」
いつの間にか私は、おばさんの話にじっと耳を傾けていた。
トクントクンと、穏やかな鼓動が全身を包むようだった。