「お医者さんのダーリンだよ。何度かるぅちゃん達も一緒に店来ただろ」
「慶兄でしょ?…別にそう言う意味では……」
付き合っていると言えばそうなんだけど………。
賑やかな雰囲気とは裏腹に、何だかやるせない気分を隠せない私は言葉が出てこなくなってしまった。
「上手くいってねーの?」
「上手くいってるとかいってないじゃなくて…いや、そーゆう意味じゃなくて!!」
ちょっとずつ好きになってと言った慶兄に、甘えたのは私だ。
私の気持ちを大切にしたいと言った慶兄に、泣きついて甘えたのは私だ。
「もも?食ってるか?…お、今日はありがとう」
タイミング良く掛けられた声に、飛び上がりそうな程驚いた。
「いやいや〜こちらこそ。新規も確保できそうなんで」
「そうみたいだなあ。悪いな、一人にして」
慶兄はチラッとカウンターを見て笑うと、私に向かってニコリと笑った。
「え?あぁ、大丈夫だよ」
そう答えた私の返事を聞くと、慶兄は瑠衣斗の席へと座った。
「想われまくってんなあ〜」
ポツリと言った夏希の言葉は、周りの声によって掻き消され、慶兄まで届かなかった。
想われている事は…私が一番分かってるよ。
慶兄が居る手前、口にはできず、その言葉が詰まったように胸をグッと締め付ける。
「んじゃ、純平手伝ってこよっかな〜。またに〜」
「あっ、何か手伝ってほしかったら言ってね」
そう言って立ち上がった夏希を思わず見上げ、立ち去ろうとした夏希に慌てて口を開いた。
チラリと私に視線を向けた夏希は、口元だけで笑って見せると、すぐに胆を返すように背中を向けて歩いていってしまった。