「大丈夫…寝れる」
そう私が言うと同時に、足元から畳を軽く引っ掛けるような音がし、身を固める。
何の音かと思った瞬間、頭上にももちゃんがやって来てそのまま伏せる。
すぐ間近に迫る気配に、思わず首を巡らせると、もう目を閉じて眠りに入る様子に頬がゆるんだ。
「すっかり気に入られたな」
「本当に?」
「ああ」
何だか嬉しくて、ポカポカ優しい気分になる。
「また散歩…一緒に行ってもいい?」
「てゆーか付いてこいよ」
瞬きを繰り返す私に向かって、何故か目を細めてうやうやしく見つめた瑠衣斗に、訳も分からず見つめ返す。
「こいつ俺だけだと全力で走りやがるから」
「…体力使うね〜」
「人事かよ」
どんな理由であれ、2人の時間があると思うと嬉しい。
ももちゃんも一緒だけどね。
「もー寝ろよ…」
「はーい」
げんなりしたような瑠衣斗に対して、明るく返事をした私は、掛け布団を口元まで引き上げた。
「…おやすみ」
「おやすみ〜」
瑠衣斗に続いた自分の声は、布団によってくぐもって聞こえる。
瞼をそっと閉じると、すぐに眠れそうな感覚に身を委ねた。
まだ月と星達の輝く夜空に、厚い雲が垂れ込んできている事に、私は気が付かなかった。
耳に届く虫達の声は、私を深い夢の世界へと運ぶ子守歌のようだ。
遠くで、雷鳴が聞こえた気がした。
でもそれは、夢なのか現実なのか、私は知る由もないまま眠りの世界へと旅立ったのだった。