水の流れて行く音は、何だかとても落ち着く。


用水路の向こう側は、鬱蒼と木々が茂っていて先が暗く、何かが居るような気配に少しだけ怖くなる。


でも、よく見れば用水路に沿って遊歩道のようなものが設けられているようで、更に小さな道から奥へと続くように道が見えた。



るぅは小さな頃から、こう言う場所で遊んでたのかな?




自然が沢山あり、広くていろんな顔を見せてくれる空は、夏空らしく近く感じる。


少しずつ、紺色にグラデーションしてきた空は、飽きずにいつまでも眺めていられるだろう。


風が吹けば、ザワザワと草木が会話するようにざわつく。


人の気配により、鳴くのを止める虫達やカエル達。


温泉街とは全く違う風景に、良い意味で驚かされる。


田んぼと用水路に挟まれた小さな道は、自然と私と瑠衣斗の距離を縮めた。


「本当に空気が全然違う。空気が美味しいって、こーゆう事を言うんだね」



自然と出た自分の言葉に、風が馴染むように優しく吹いた。


私の髪をさらう風は、優しく、心地良く、一瞬だけ包み込まれたような感覚だった。



「都会は確かに何でも簡単に手に入るし、住みやすい。けど…」


「…うん」



瑠衣斗の横顔は、いつになく穏やかだ。


サラサラの髪は、風に吹かれて乱れ、何だか瑠衣斗を色っぽく思わせる。


「気持ちの余裕がなくなっちまう」


「気持ちの余裕…?」



どう言う事だろう。頭の良い人って、考える事まで複雑なのかも。


そんな私の考えを余所に、瑠衣斗が再び私に目を向けた。


「誰かさんが居なくなると、人と建物がありすぎてなかなか見付けれねーから」


「………」


「だから、気持ちの余裕なんて毎日ねーようなもんだ」