「じゃー…そろそろ行くわ」
「ありがとね。気を付けて運転するんだよ」
「おう」
馴れた動作で単車へ跨り直すと、ふと瑠衣斗と視線が交わる。
「添い寝はいらねえ?」
「いらねー」
笑って言う瑠衣斗に、笑って返した。
何だかとても照れくさくて、口をぐっと結んだ。
対して瑠衣斗は、そんな私とは対照的に楽しそうに笑っている。
本音は、ほんの少しだけ、寂しい。
一人になると、やっぱり慶兄の事が頭から離れなくなる。
でも、そんな日もいいだろう。
たくさんの思い出を残してくれた事を、今日はたくさん考えよう。
慶兄の優しさや、してくれた事、もらった物は数え切れない。
その全ては、私の宝物だし自慢だ。
「何かあったら連絡してこいよ。んじゃな。おやすみ」
「うん、おやすみ」
軽く手を上げて、小さく手を振った。
それを確認すると、瑠衣斗はエンジンをかけ、一度目を向けて片手を上げると、颯爽と私の前を過ぎて行った。
小さくなるテールランプが消えるまで、私はその場を離れられずにいた。