「んじゃ、気を付けて行ってこいな」
「じゃーなー!!またな〜!!」
店を出ると、蒸し暑い空気が全身にまとわりつく。
何だか雨が降りそうな匂いが、鼻についた。
「ごちそうさま。ありがとうね」
「またね〜」
やたらとニコニコと手を振る夏希と純平とは対照的に、瑠衣斗が何だかぎこちなく手を挙げた。
風の全くない中、じっとりとした暑さで額にはすぐ汗が滲んでくる。
見送る2人に、私も手を挙げて応えたると、瑠衣斗と並んで来た道を引き返した。
人も疎らだった繁華街は、出勤してきたホステスさんや呼び込みの人で、徐々に賑わいをみせている。
スーツ姿で頬を赤らめた人や、私達と変わらない学生風の人達、いろいろな人で溢れかえってきていた。
「……なあ」
「ん?」
人混みから私を庇うように、さり気なくエスコートしてくれる瑠衣斗に、いつになく胸が過剰に反応する。
悟られないように平然を装うのも、骨が折れるが心地良い。
「……るぅ?」
なあ。と言ったきり、何も言わなくなってしまったして瑠衣斗に対し、自然と視線を向けた。
見上げた瑠衣斗は、一点に視線を向けたまま、何かを考えているようにも見える。
こうして改めて見ると、やっぱり慶兄と兄弟なんだ、と思う。
さり気ない表情が、慶兄と被る。
胸が鈍い痛みで、ギュッと狭くなる。
「俺の地元に行ったら、ももに見せたいモンがある」