「……なぁ」
「ん?なに?」
水道で手を洗いながら、瑠衣斗が俯いて私に声を掛けてきた。
俯いているせいで、その表情は見えない。
何の躊躇いもなく返事をした私は、次の瑠衣斗の言葉に思わず動きを止めた。
「俺、好きな奴いるって言ったよな」
ポツリと言った瑠衣斗の顔は、やっぱり見えない。
胸がキュッと押しつぶされたみたいで、モヤモヤする。
「……え…?」
確かに、瑠衣斗には好きな人がいる。
でもこうして、瑠衣斗の口からハッキリと聞いたのは初めてだ。
改めて、瑠衣斗本人から聞くと、何だか聞きたいけど聞きたくない。
それに、今更だし何故このタイミングなんだろう。
「それが…なに…」
何だか怖くて声が震えそうだ。
それを何とか抑えて、平然を装って声を出した。
並んで手を洗おうと、瑠衣斗の隣へと並び、温い水に手を濡らした。
ひんやりと冷たいといいのに、生ぬるい水道水に意識をスッキリさせる事もできなかった。
「一度振られた…っぽいんだよねー」
「……へ?」
振られ……た?ぽい?
「彼氏できちゃってさ」
手を止めて言う瑠衣斗の顔を、見れない。
水の雫が、瑠衣斗の手から落ちていく様が、スローモーションのように見える。
聞きたくない。もう、聞かない方がいいかもしれない。
「でも…最近別れたみてえ」
胸に、何か鋭利なモノが刺さったようだった。
グッと詰まったように、胸が息苦しくてたまらない。