「……辛くない?」


「……辛くないよ」


「私……いっぱい傷付けた」


「…いつ?俺は全然そんな事なかったぞ」



ポンポンと、小さな子供をあやすように、慶兄が私の背中を撫でてくれる。


「いつも…ごめん」


「何で謝るんだよ」



笑って言ってくれる慶兄が、頭をグシャグシャとかき混ぜる。


目から涙が溢れ出て、慶兄の服に染みていく。


今までの気持ちが、こうして伝わればいいのに………。




“気持ちを表に出す事を怖がるな”




私は、慶兄にもらってばかりだ。


最後まで、何もできないままでは嫌だ。



変わりたい。変わらなきゃ。



「慶兄……幸せになって。こんな私でごめん」


「……うん」


「ありがとう。本当に……今までありがとうね」


「うん……頑張れよ、もも」




ギュッと抱き締めてくれる慶兄に、負けじと抱き締め返した。



さよならじゃない。またね、なんだよね。



「そんじゃあ……またな」


「……うん、またね」



ポンポンと私の頭を撫で、慶兄の腕から力が抜けた。


惜しむように、離れて行く慶兄の腕は、もう掴む事はできない。



本当に、もうこれでお別れ。



ニッコリと笑う慶兄は、ゆっくりと背を向けて歩き出した。



その背中が見えなくなっても、私はその場から動けなかった。