「さあーて、じゃ〜行くな」


腕を大きく伸ばして言う慶兄に、ハッとして顔を向けた。


「帰んの?」


「いや、ちょっと仕事の話しに行かないといけない」



瑠衣斗の問い掛けにそう言いながら立ち上がった慶兄は、そのまま私に視線を向けた。



何だか無性に寂しさが胸を圧迫するようで、グッと苦しく詰まる。


いつもなら一緒に来て、一緒に帰る。それが当たり前になっていた。



でも、今日からは………。




「じゃーな、もも。ついでにお前らも」



優しく笑う慶兄は、そう言いながらドアへ向かって行く。


「頑張ってなあ〜!!」


「またねー」


「おう。じゃーな」



そう言う宗太と龍雅のセリフも気にする余裕もなく、気が付くと私は立ち上がっていた。


ドアが閉まってしまう直前に、私はそのドアノブを勢い良く開けた。



「慶兄っ!!」



廊下に出てしまうと、湿った生暖かい外気が全身に纏わりつく。


静かに閉まったドアの音が、廊下に響く。


そんな音を合図にしたように、ゆっくりと慶兄が振り返った。



大きな背中に、無性に涙が溢れ出てきそうになる。


肩越しから振り返った慶兄に、私は走り出していた。




「……もも?」



少し驚きながらも、優しい慶兄の声が頭上から降ってくる。



私は、慶兄にしがみついていた。



「どうした?」




そんな優しい声に、胸がギュッと疼く。


腕の中に抱き締めた慶兄は、優しい温もりで私を抱き締め返した。